ブログ~多様性の小径~


パラダイム・シフト-「賢く貧しくなる」ことへのひらめき

1980年代前半、人文科学・社会科学の領域で、ニュー・アカデミズムの嵐が吹いた。
当時26歳の浅田彰を筆頭とする新進気鋭の論客たちが、
雑誌『現代思想』を舞台に、ポスト近代における価値枠組みの転換(パラダイム・シフト)を論じたのである。

その時、私は弱冠21歳。
筑波大学大学院「文化生態学」研究室に在籍しており、
指導教員・掛谷誠先生の家で、関西風のおでんやたこ焼きを囲んで、
先輩達とニュー・アカデミズムにのってよく議論をしたものだ。

高度経済成長がいつまでも続くわけがないということと、
霞ヶ浦や城下町・土浦でフィールドワークをしながら、
1970年(=昭和45年)を境に、社会の中で何かが変わりつつあることを、当時、強く実感していた。

修論のテーマ「自然と人間の関係」を追求するために訪れた青森県・津軽地方でのフィールドワークでも、
稲作の減反と猫の目農政に痛めつけられながら行ってきた「出稼ぎ」に代わる働き方としての、
「地域おこし」が盛んに模索されていた。

そして、アジア各国でも、市民社会が台頭してきていた。

韓国では学生が民主化を求めて光州事件がおこり、
フィリピンでもマルコス独裁政権に対する不満が増強していた。
日本も沖縄で、返還後の琉球国独立の風潮が高まっていた。
文学の世界では、中上健次の被差別部落をめぐる私小説的作品「地の果て至上の時」などが脚光を浴び、
価値の相対化が静かに進行していた。

その時、私がひらめいたのは、

「日本は、これから、これ以上、物質的な豊かさを求めるのではなく、賢い方法で貧しくなるべきだ。」であった。

そう思ったのは、首都・東京に暮らしていてはわからなかったかもしれない。
津軽の地域文化と人の優しさに出会い、同時に、津軽じょっぱりと言われる反骨精神に触れたからかもしれない。

何より、1970年代の公害の問題が、1980年代には環境問題としてグローバル化してきていたからそう感じたこともあった。
つまり、その後、1992年にはブラジルのリオで地球環境サミットが開催され、持続可能な開発が求められ(「リオ宣言」)、
Think globally、Act locally、地域の問題は世界の問題になったのである。

そして、1995年、阪神・淡路大震災の後に、ボランティアが市民権を得、
NPO法の成立とも相まって、日本でも市民社会が成熟するかに見えた。

しかし、ニュー・アカデミズムの潮流から30年、
日本で、パラダイム・シフトは、まだ、表立っては起こってはいない。

産業構造は、農林水産業といった第一次産業に支えられる社会からサービス業を主とする第二次産業へ移行、
そして、90年代は高度情報化社会へと転換した。
80年代までの高度経済成長の象徴は日本の公共事業・インフラの整備であり、
利便性を考えるとインフラの整備はある程度は認められたとしても、
規模の拡大の一途をたどるような無策は、避けられるべきであっただろう。

最近の出来事で言えば、八場ダムなどがそのいい例だし、
福島の原発事故を経験してみると、巨大技術もまた、わたしたちの身に余る持ち物だったのだと痛感する次第である。

しかし、再び言おう。日本でパラダイム・シフトは、まだ起こっていない。
ワールド・シフトとして、いくつかの動きがあるが、ひとり一人の市民の動きになるには、まだまだ、時間がかかりそうである。

バングラデシュやブータンに学ぶことも必要かと思うが、別稿に譲る。

そして、私自身も、賢く貧しくなる道を模索中である。

つまらないことかもしれないが、
・プラスチック製品ではなく、陶器や木製・布製の品物を買うようにしている。
・服などは、流行を追わずベーシックなものを選択している。
・家は、マンションでなく中古の木造住宅を購入し、緑のカーテンを育て、エアコンをガマンしている。
・食は、多少高くても、「地産地消」や「オルタトレード」を心がける。
(これは、我慢ではない。実際、間違いなく“おいしい”のである。)
・教育活動では、「自ら考える姿勢」を学んでもらうようにしている。
(そのためには、ワークショップは大事な学びの方法である。)
・なるべく問題の現場をフィールドウォークし、現場の声に耳を傾ける。
などを、実践している。

そして、今回のWEB開設のように、自らがまず発信することにしたのである。

ゴマメの歯ぎしりかもしれないが、続けて行こうと思う。
(よかったら、応援してください。)

 

 

大学での教育や共育ファシリテーターとして思ったことなど、日々の思索をつづっていきます。 価値の多様性を尊重し、さまざまな意見に出会いたいとも思っています。 お感じになったことは是非コメントをお寄せください。よろしくお願いします。

RSS/XMLフィード